青磁は古美術を代表する陶磁器の一つで、中国で発明されました。
唐の時代に技術が一気に進化し、その後の宋代に完成の域まで達しました。
その美しい釉薬の色は珠玉(真珠や宝石)に勝るとも言われたほどです。
青磁はその名の通り青色(碧色)の陶磁器ですが、時代や窯ごとに色や釉調は全然違います。
そんな青磁の釉薬の色や質感の違いを写真付きで解説いたしますので、美術品の鑑賞にお役立てください。
また、骨董品探しや鑑定にもお役立てください。
※代表的な青磁の釉調を紹介するものですので、この記事が必ずというものであはありません。特に官窯でない明窯では安定せずさまざまな釉調のものがございます。ご参考程度にお考えください。
目次
青磁の色の理由
青磁の色は透明の釉薬に含まれる微量(1~3%)の鉄分が焼く際に還元されて発色いたします。
「還元炎焼成」にて窯の中に空気が入らないようにし、不完全燃焼させることで微量の鉄が酸化第一鉄となり、青色から緑色に発色いたします。
逆に酸素を取り込む「酸化炎焼成」だと黄色となり、米色青磁(べいしょくせいじ)と呼ばれます。
青磁の釉薬の色は釉薬に含まれる鉄の含有量と、焼成時の酸素の量で決まります。
また、釉薬の厚みにより色の濃さに変化が出ます。
釉薬が厚いものは澄んで釉調で色が濃い発色をしますが、釉薬が薄いものは淡くくすんだ色になります。
釉薬中の酸化第一鉄の含有量が少なかったとしても、厚みを持たせることでしっかりとした色を出すことができます。
そしてもう一つ、釉薬中の鉄以外の成分も青磁の色へ影響を及ぼします。
釉薬は現代と違い厳密に成分を分離して組み合わせることができるものではありませんでした。
そのため、青磁釉を生成する際に混ざる他の成分により色が変わり、これが各窯の色の違いの特徴とも言えます。
例えば、長石釉に珪酸などの酸性成分が多いと青みが強くなり、石灰などの塩基性成分が多いとオリーブのような深緑になります。
代表的な青磁の名窯
代表的な青磁窯は唐代には越州窯(えっしゅうよう)、宋時代の北宋には汝窯(じょよう)や耀州窯(ようしゅうよう)、南宋には南宋官窯(なんそうかんよう)や龍泉窯(りゅうせんよう)がございます。
朝鮮半島でも高麗時代に中国からの影響を受けて、高麗青磁と呼ばれました。
日本でも少し遅れて17世紀に有田焼や鍋島焼で焼かれます。
越州窯(えっしゅうよう)
越州窯は浙江省慈渓市やその周辺にあった青磁窯です。
唐時代から五代時代にかけて最も隆盛し北宋時代まで続きます。
オリーブ色がかった美しい青磁は「秘色(ひそく)」と呼ばれ、朝鮮半島や日本へ伝わり影響を及ぼしました。
しかし、釉は緑がかった灰褐色ですが時代と共に色に違いが変わり一様ではありません。
唐時代の頃はオリーブ色ですが、やや黄色みがかかっております。
その後北宋時代になるとオリーブ色味は残るものの濃い緑色に変化していきます。
どの時代もガラス質があり、細かな貫入が入るのが特徴です。
耀州窯(ようしゅうよう)
耀州窯は陝西省にあった華北を代表する青磁窯です。
唐代から続き北宋時代に最も隆盛しました。
釉薬の色は北宋の越州窯に近く、やや黄色みがかかった濃い緑色でが、やや灰色ががかっています。
彫紋様が特徴であり、釉薬による濃淡で表情を作ります。
貫入は入りますが浅めであり、彫紋様もあってあまり目立ちません。
汝窯(じょよう)
河南省にあったと青磁窯で、宮廷御用達の北宋時代の官窯でもございました。
ただ、汝窯の稼働期間は短く20年ほどしか生産がされていません。
釉色は「雨過天青(うかてんせい)」とも言われ、雨上がりの晴れた空の色に例えたしっとりとした薄い水色です。
現代的な言葉にするとターコイズブルーと言うとわかりやすいかもしれません。
ガラス質のない失透性の釉薬で、貫入は少なく、あっても細かく離れてみると目立ちません。
水色の斑点が浮かび上がるものがあるのも汝窯の特徴です。
また、釉薬に釉薬に瑪瑙(メノウ)の粉を入れていることで、ピンク色の淡い光沢が現れるのも汝窯の特徴になります。
水色が強いものからやや黄緑色がかったものまで若干の色の違いはありますが、汝窯は他にはないしっとりとした釉調であり、統一感がございます。
南宋官窯(なんそうかんよう)
浙江省杭州などにあった窯で、宮廷のための陶磁器を焼く南宋時代の官窯でした。
修内司(しゅうないし)官窯や郊壇下(こうだんか)官窯などがあったとされています。
南宋官窯は灰青色と言われ、やや灰色味がかかった緑青色の青磁です。
とても分厚く釉薬を掛けるのが特徴であり、色がしっかりと出ます。
ガラス質が分厚いため、くっきりとした貫入が入ります。
より良いものはその貫入が二重貫入となって現れます。
また、拡大して見ると釉薬の粒状感があるのも特徴です。
南宋官窯は複数の窯があり期間が長いため、同じ灰青色でも青色が強いもの、緑がかったもの、黄色がかったものなど様々ですが、前述の通りくっきりとした貫入が共通点と言えます。
龍泉窯(りゅうせんよう)
浙江省龍泉県にあった窯で南宋を代表する青磁窯です。
最も隆盛したのは南宋時代ですが、元代、明代まで長い時代続き、時代により釉調が変わります。
南宋~元代初:砧青磁(きぬたせいじ)
この頃は「粉青色釉青磁」と称され、美しい淡い水色です。
澄んだ色でガラス質は少なく、貫入もほとんどございません。
拡大して見ると釉薬の粒状感がございます。
日本では砧青磁と呼ばれました。
元代~明代初期:天龍寺青磁(てんりゅうじせいじ)
砧青磁に近い色合いですが、やや黄色みを帯びるようになります。
ガラス質と光沢もありますが、貫入は少なめです。
これは海外からの大量注文により、精良な減量が不足したためと言われます。
日本では天龍寺青磁と呼ばれました。
また、鉄斑を散らした飛青磁もございました。
明~清代初期:七官青磁(しちかんせいじ)
前の時代に比べると釉調がガラリと変わり、灰色がかった濃い青緑色になります。
また、ガラス質が厚くなり、これまでになかった貫入が全体に入るようになります。
日本では七官青磁と呼ばれました。
哥窯(哥窯)
浙江省にあった窯で南宋時代に隆盛します。
哥窯は青磁ながら白いのが特徴です。
白いため白磁とも言われますが、実際には灰青釉から鉄の含有量を調整し、緑色の成分を抜いた青磁に分類されます。
ガラス質がほとんど含まれない失透性の釉薬で白い器面に大きめの黒や茶色の貫入が入ります。
高麗青磁(こうらいせいじ)
朝鮮半島の高麗時代に作られ始めた青磁で、中国の越州窯などから伝わった青磁が元になっています。
「秘色」の系譜を弾く灰青緑色の系譜を引き、12世紀には翡翠のような色であったことから「翡色(ひしょく)」と言われました。
灰青色の落ち着いたしっとりしたものが多いが、色や釉調は一様ではなく、緑の濃いもの、ガラス質が厚く貫入が多いものなど様々です。
高麗青磁は象嵌や陽刻などの装飾が入るものが主流です。
それぞれの青磁色を並べました
それぞれの青磁を一つに並べてみました。こうしてみるとそれぞれの青磁で結構違いがあるのがわかると思います。
唐か五代を経て、宋代に移ると青磁の技術が大きく向上し、色がくっきりと貫入も美しくなります。
これは釉薬の精製ももちろんですが窯の技術が向上したことが要因です。
その後明代にかけて青磁は品質が落ちていきます。
そして現代の電気やガスによる窯とは違い、この時代の窯は大型で松などの木や木炭を燃料としており技術が向上したとしても安定はしておりませんでした。
釉薬の成分のバラつきなどもあり、この写真とはやや違う色調や釉調のものも沢山ございます。
当美術館の中でも青磁は特に力を入れて収集をし公開をしておりますので、色々ご覧いただき違いなどを確認いただければと思います。
青磁の一覧は下のボタンからご覧いただけます。
また、実際に販売されているものになるとさらに釉薬の色調が多様になります。
特に高麗青磁は作られた時代も長く、大きく色調が変わってきます。
当オンライン美術館「燦禾」では公式で骨董屋を運営しており、青磁を多く取り扱っておりますので、是非こちらもご覧いただき青磁の釉調の違いを確認いただければと存じます。
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