釉薬とは陶磁器の表面に掛かっているガラス質の層のことです。
その役目は多岐に渡り、色などの見た目だけでなく、強度の向上や防汚などの役割を持ち焼き物にとって大変重要です。
その釉薬について写真を用いて解説いたします。
釉薬(ゆうやく)とは
釉薬とは陶磁器を焼く際に形成し素焼きした土の上に掛ける材料で、焼くことで熔け、冷めることで硬くなり表面でガラス質になります。
液体(湿式)が主流ですが、他にも粉状(乾式)もございます。
使用する原料によりその色や表情が異なります。
代表的なものとして灰釉(はいゆう・かいゆう)があり、これは草木の灰を主原料にし長石などの砕いた土石類を混ぜて水に溶かしたものです。
これに鉄や銅などを混ぜることで様々な色に発色し、青磁や黒釉などと呼ばれる陶磁器になります。
施釉(釉薬が掛かっている部分)されている箇所と素地は質感の違いですぐにわかります。
釉薬の歴史
釉薬が初めて使用されたとされるのは紀元前四千年ごろに石材に使用した痕跡があったとされます。
陶磁器に使用されたのは紀元前1500年頃にガラスが発明されてからで、中東やエジプトにて灰釉を含むアルカリ釉が使用され始められます。
中国では長石の粉末を下塗りした乾式の釉薬が起源と言われ、紀元前100年頃までには鉛釉が普及していきました。
原始青磁は紀元前1600〜1046年には製造されています。
日本では古墳時代に須恵器に天然灰釉を用いて総則がされ、奈良時代頃に中国から釉薬が伝来します。
釉薬の効果や役割
釉薬はその材料により色味が変わるため、装飾的な効果に注目されがちですが、他にも強度の向上や汚れを塞ぐ効果がございます。
- 装飾効果・・・釉薬の原料により色味や光沢感などの釉調が変化します。
- 強度の向上・・・表面をガラス質が覆うことにより強度が向上します。
- 防汚効果・・・表面をガラス質が覆うことで汚れが付着しにくく、水の吸水を抑えます。
その効果は釉薬に含まれる3つの成分である「アルカリ性」「中性」「酸性」による働きによるものです。
- アルカリ性・・・釉薬を熔かす役割で、草木の灰や石灰など。
- 中性・・・釉薬と素地土を接着する役割で、土や長石に含まれます。アルミナ(酸化アルミニウム)のこと。
- 酸性・・・熔けてガラス質になり、珪石や長石、灰に含まれます。珪酸のこと。
この3つを組み合わせ、さらに色をつけるための呈色剤に鉄などを入れて様々な釉薬を作り上げます。
- 呈色剤・・・色をつける役割で、胴や鉄など鉄分が主流です。
主な釉薬の種類
灰釉は釉薬の基本的なものですが釉薬には様々な種類がございます。
名称は材料をもとにしたものや、性質や釉調からつけられます。
また、ほぼ同じ成分でも地域や窯から名称がつけられるものもございます。
灰釉(かいゆう)
草木の灰を主原料とし、そこに長石や珪石を配合したものになります。
イス灰類・土灰類・藁灰類と大きく3つに分類することができます。
釉調は純度により変わりますが、主には乳白色の透明な光沢釉となります。
青磁釉(せいじゆう)
植物灰などの灰釉をベースに酸化第二鉄を含みます。
その酸化第二鉄を窯の中に空気が入らないように「還元炎焼成」し、不完全燃焼させることで微量の鉄が酸化第一鉄となり、青色から緑色に発色いたします。
時代や窯によりその色は大きく変化をいたします。
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鉄釉(てつゆう)
鉄分を呈色剤に入れた釉薬で主に高火度焼成します。含有量により程度は変わりますが茶色から黒色に発色をします。
その釉調から柿釉(かきゆう)、飴釉(あめゆう)、黒釉(こくゆう)などとも言われます。
天目茶碗に使われる釉薬も鉄釉の一種で、天目釉(てんもくゆう)と呼ばれます。
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透明釉(とうめいゆう)
光沢のある無色透明の釉薬で、素地の色や化粧土の色を活かすことができます。
石灰と長石と粘土を主成分に、亜鉛華・カオリン・珪石を調合すると透明釉が作れます。
素地が白い白磁や染付などの釉薬に使用されます。
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緑釉(りょくゆう)
透明釉に3~5%の酸化銅を加えることで緑色に発色します。唐三彩などの低温焼成用や、織部釉(おりべゆう)のような高温用があります。
長石釉(ちょうせきゆう)
長石釉は透明釉と似た釉薬ですが、長石を主成分に石灰と粘土を主成分とすることで焼成後はわずかに乳白色になります。
志野焼に使われる志野釉(しのゆう)は長石釉の中でも長石を単身で使用したものです。
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自然釉
釉薬を人為的に施さなくても表面に釉薬が付くことがございます。
これは窯の中で被せていた藁や燃料などの灰が器面に付着することででき、自然釉と呼ばれます。
代表的なものには備前焼がございます。
当ギャラリーでさまざまな釉薬を楽しみください
当サイトでは様々な陶磁器の掲載をしており、釉薬の拡大写真なども沢山掲載しております。
例えば青磁一つとっても時代や窯によって違い、全く違う釉薬にも見えるほどです。
志野釉や織部黒、瀬戸黒といったなかなかマジマジと見ることができない珍しい陶磁器もございます。
陶磁器は器形や装飾、絵付などに注目が集まりがちですが、釉薬こそが化学の結晶でありもっとも歴史の中で技術が進歩した要素です。
今では科学的に成分を取り出し作れるようになりましたが、技術の発展していなかった古陶磁で美しい釉薬を作り上げることは大変難しいもので、多くの失敗を経て完成されました。
そんな歴史を感じながら様々な陶磁器を見ていただければと思います。
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