美術品の中でも特に人気の高いのが天目茶碗です。
国宝には曜変天目茶碗が3碗と油滴天目茶碗、玳玻天目茶碗で計5碗、重要文化財にも数碗ございます。
陶磁器を収蔵する美術館でも目にする機会が多いのですが、ただ漠然と見るだけなのはとても勿体無いです。
これを読めば国宝の曜変天目や油滴天目、玳玻天目、重要文化財の白天目などを何倍も楽しんでいただくことができます。
そこで、天目茶碗を何倍も楽しんでいただくための見どころと鑑賞ポイントを写真付きで解説いたします。
釉薬から形、土の見どころなどをわかりやすく解説いたしますので、初心者脱却の第一歩として美術館に行く前の予習や、行った後の復習としてお役立てください。
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目次
まず産地を確認しておこう
鑑賞をするにあたって、まずはどこ産の天目茶碗なのかをご確認してから天目茶碗をご覧ください。
産地によってそもそもの作り方や釉薬が変わります。
産地は茶碗の横に説明書きされております。
建窯(けんよう)の天目茶碗
天目茶碗を代表する産地であり建盞(けんさん)と呼ばれます。
美術館にある曜変天目茶碗、油滴天目茶碗、禾目天目などはこの窯産のものがほとんどです。
建窯以外の天目茶碗
玳玻天目の産地である吉州窯(きっしゅうよう)や灰被天目の茶洋窯(ちゃようよう)がございます。
建窯とは違う独自の天目を焼いている窯です。
日本製の天目茶碗
和物天目とよばれ、室町時代以降に天目茶碗の需要増大に伴い美濃窯や瀬戸窯で焼かれました。
建窯などを模して作られたもので、白天目や菊花天目などがございます。
見どころ1:模様
天目茶碗の一番の見どころはやはり釉薬とその器面に現れる模様です。
模様により天目は名前がつけられ曜変、油滴、禾目は聞いたことがあるかと思います。
建窯の天目は一度掛けした釉薬が焼成中の窯内の温度の変化でに予期せぬ変化が起こる、窯変現象によるものです。
言うなれば偶発的なもので、特に昔の窯は温度のコントロールや釉薬の調合が難しく、特定の模様を狙って作ることは困難でした。
100個のうち一つ、1000個のうち1つ、10000個のうち一つといった綺麗に模様が出たものが、貴族などに伝わり残されていった品です。
窯変による模様は種類により出来やすさがあり、それにより希少性が変わります。
中国の建窯で作られた天目なら、曜変が一番希少性が高く、続いて油滴、禾目の順になります。
「君台観左右帳記」にて曜変は萬疋、油滴は五千疋、禾目は三千疋と評されています。
その模様の美しさを見るのはもちろんのこと、模様の出やすさや希少性に注力して見てみるのも面白いと思います。
曜変天目
見込みに大小のさまざまな結晶が浮かび、その周囲を暈状に虹色の虹彩が出ているものを言います。
虹彩の内側が黒く輪郭が白いのが特徴であり、またその周囲にはオーロラのような帯状の模様が出ます。
また、強い光を当てないと模様がほとんど見えないことも、他の模様と違う特徴です。
この模様の表情を意図的に作るのがとても難しく、現代でもまだ技法が確立されていないほどです。
油滴天目

大阪市立東洋陶磁美術館(住友グループ寄贈/安宅コレクション) 写真:六田知弘 MUDA Tomohiro
器面には小さな粒状の斑紋が、水に浮かぶ油のように見えることからそう呼ばれます。
これは焼成中に釉薬に含まれる酸化第二鉄が気泡とともに表面に浮かび、気泡が破れた跡に結晶が集まることで斑紋になります。
斑紋は茶色や水色がかった銀色であることが多く、光を当てることで鏡のように輝きます。
途中で結晶が垂れてしまうこともあり、綺麗に丸く結晶が集まり油滴とならずに失敗品になりやすいものです
禾目天目
器面に縦方向に線状の模様が流れる姿が、稲穂(禾)に見えることから禾目天目と呼ばれます。
焼成中に釉薬に含まれる酸化鉄の結晶が浮き出て、溶けて流れ落ちることで模様となりますが、油滴と違ってその場で留まる必要はありません。
そのため、窯変の中では比較的作りやすく、数も多いため、禾目天目は国宝にも重要文化財もありません。
上記の2点は神秘的な印象を受けるのに対し、模様の色はほとんどは茶色で、どちらかというと庶民的な印象です。
しかし、お茶を入れる用途としては最適な模様との声もあります。
玳玻天目
上記の3点とは窯場違う吉州窯産で作り方も違い、黒釉の上から意図的に黄色い釉薬を掛け、鸞や鼈甲といった模様を描きます。
建窯の天目茶碗の模様が偶発的なものであったのに対して人為的なもので、その価値の評価が変わります。
形を置いて模様を描いた鸞天目や梅花天目は価値が高く、釉薬を垂らした鼈甲盞(能皮盞)の方が下とされています。
灰被天目
肺を被ったような艶のない釉調に由来し、黒釉と灰釉を二重掛けして作られていました。
建窯の建盞とは区別され、かなり低い価値でした。
しかそ、珠光らによりその佇まいが侘茶にかなうものとして、評価が上がり、山上宗二には灰被の方が建盞より上位に位置付けられたほどです。
美しい人工的な製品の建窯よりも、一作一作陶工の個性が感じられる灰被天目が賞賛されるようになりました。
白天目
白い釉薬を掛けた天目を白天目と言います。
朝鮮や日本で作られていましたが、美術品において白天目と言うと室町時代に美濃や瀬戸で作られたものを指します。
天目茶碗の需要増加により室町時代より作られるようになり、日本でも作られていた灰釉を用いて作られるようになります。
堺の茶人・竹野紹鴎が複数所持していたものであり、美術館にも数が少ない天目です。
見どころ2:黒い釉薬と茶の関係

匣鉢に入った状態の黒釉の天目
天目茶碗はその模様に目が行きがちですが、建窯を初めとした天目茶碗は元々、真っ黒な茶碗を焼くために鉄釉を使用しております。
これは北宋時代に入り喫茶方法が変わり、茶末を茶碗に入れ湯を注ぎ茶を立てる点茶が流行となります。
当時のお茶は白くそれが映える色として、建窯の黒い茶碗が注目されるようになったのです。
中国の茶の古典「茶録」には「茶の色は白なれば黒盞がよろし」との記述もあるほどです。
そして、茶の美しさを競う「闘茶」というものに発展していく上で、黒釉をベースとした茶碗の中で特別感を演出するために、禾目天目や油滴天目といった茶碗にもこだわりが見えるようになります。
白色の茶湯のなかに鮮やかで華麗な文様が浮かび上がる景色を想像しながら天目茶碗を見ていただくとより一層楽しめると思います。
見どころ3:釉薬垂れの滴珠

施釉線を超えた滴珠
天目茶碗の施釉は高台をつまんで逆さにし、釉薬に腰部の施釉線付近まで一度だけ浸し掛けいたします。
釉薬が胎土に吸着したら、上下を元に戻し、乾燥をさせて焼成をいたします。
その焼成時に釉薬が柔らかくなり、下に流れ落ちる流下現象がおき、施釉線付近で分厚く釉溜まりとなります。
そして、その中には施釉線を越えて釉薬が裾や高台にまで至り、雫状に凝固をいたします。
この雫は「滴珠の大いなる真」とも言われ、天目茶碗ならではの見どころの一つとなっています。
雫の有無、本数、長さなど天目茶碗によりさまざまですので、見比べて楽しんでみてください。
見どころ4:茶碗の形
天目茶碗は第一の産地である中国・建窯にて点茶の流行とともに生み出されました。
その形状には点茶に適した機能性を考えられ、創意工夫されさまざまな形状がございます。
喫茶用の茶碗は中型のもので口径11~15cmほど、高さ6.5cmほどになります。
深くたっぷりとしたこの大きさが一服の茶に理想的であったとされます。
建窯の天目茶碗=建盞の造形の特徴は口が大きく開き小さな高台であり、横から見ると漏瑚(じょうご)のような形ですが、細部が違い、束口碗、斂口碗、撇口碗の3種類に分かれます。
また、吉州窯の天目はこれらに属さない独自の形状をしており、和物天目は建窯のと磁州窯などを参考にした独自の形状をしております。
束口碗(そくこうわん)
束口碗最大の特徴は口縁部にくびれを持つことです。
胴からなだらかに上部に引き上げられ、口縁部下で内側に一度入り、浅い溝状になって外周を一周します。
外側ではくぼみですが、内側は反対に膨らみが見られます。
このくぼみは点茶の際に湯を入れる目安として、また湯の跳ねや溢れを防ぐための機能であったと考えられています。
このように茶の湯での利用がしやすいことから、天目茶碗(建盞)の代表的な形状であり、多くの美術館で見ることができます。
口縁部のくびれの深さや角度、胴の丸みなどそれぞれ個性的なので、その違いを見比べてみてください。
斂口碗(れんこうわん)
胴の上部から口縁に向けて少し内側に抱え込むような形の碗で、丸みを帯びた豊かな外観です。
口縁下にくびれはありません。
美術品としてはほとんど見かけることのない形です。
撇口碗(へっこうわん)
口縁部がラッパ状に開いた形であるのが特徴的で、胴は弧状を呈しております。
撇口碗は茶以外にも湯盞として、あつものやスープを飲むものとして利用し、屑渣(だしがら)が残らない飲みやすい形状であったとされます。
静嘉堂文庫美術館の油滴天目や徳川美術館の建盞などにこの形状のものがあります。
吉州窯の天目の形
吉州窯の玳玻天目を焼いていた窯で、建窯に並ぶ産地です。
吉州窯の天目茶碗の最大の特徴は高台がより小さく極めて低い、もしくは高台に高さがないことです。
胴の形状も口が大きく開いたものが多く、胴が直線的である斗笠碗などもございます。
和物天目の形
和物天目の形は建窯や磁州窯などの中国産の天目の形を模し、美濃の技術と組み合わせた形状です。
代表的なものの多くは口縁下でくびれを持っているか、もしくは垂直に立ち上がります。
このように天目茶碗と言っても形状はさまざまです。
形を見て口縁部や胴の違いを比べてみたり、その形状の機能に注目して見てみるとまた違った楽しみがあると思います。
形を見て窯や時期などがわかってくると楽しみも倍増ですよ。
見どころ5:胎土

建窯は黒か赤黒い土
土を見れば時代や窯がわかると言われるほど重要な鑑賞ポイントです。
美術館で展示している以上、高台(底)まで見ることはできませんが、天目茶碗は腰から下や高台が露胎しており、そこから胎土の様子を見ることができます。
現代と違い、何百年前も前の窯業においては大量の土を運ぶのは困難であり、近隣から取れる土を使用していました。
南宋の建窯であれば鉄分の多い黒くねっとりとした土、もしくは赤みがかかった黒い土が使われます。
吉州窯であれば鉄分が少なく乾いた黄白色、和物天目の美濃窯は白い土が中心に使われます。

吉州窯は乾いた黄白色
土は奥が深く簡単にわかるようなものでありませんが、土によりその茶碗が作られた窯や時代を判断する大きな基準なので、ぜひご覧ください。
土を見ておおよその時代や窯がわかるようになると陶磁器の鑑賞は何倍も楽しくなってきます。
当オンライン美術館で高台もご覧ください
上記の5点が特に見てもらいたいポイントで、これだけでも他の方に比べて1段階も2段階も上のレベルで天目茶碗を鑑賞ができます。
しかし、これ以外にも天目茶碗のそれぞれの違いを感じることができるポイントは沢山ございます。
例えば高台の作りは窯や時代を判断する大切な要素ですが、多くは隠れて見えません。
こういった見えない部分は美術館に売っている目録(パンフレット)や書籍に載っている場合があるので、天目茶碗をより知りたい人は購入をしてみるのも良いと思います。
当オンライン美術館では、美術館ではみることのできない高台の底の写真も公開しております。
また、模様の拡大の写真も載せておりますので、釉薬の結晶の流れなども見ることができます。
美術館に行く前の予習、行った後の復習として是非ご覧いただければと思います。
天目茶碗の一覧は下のボタンをクリックでご覧いただけます。
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