陶磁器の世界において青磁、彩色陶磁と並ぶ歴史の深い陶磁器に白磁がございます。
その名の通り白い陶磁器であり、中国で誕生し、定窯や景徳鎮などで進化をしました。
いまなお作り続けられる、白磁について特徴や歴史を解説いたします。
白磁の購入方法も説明いたしますので、お探しの方はご参考ください。
白磁(はくじ)とは
白磁とは白い素地に透明または半透明の釉薬を掛けて焼いた陶磁器のことです。
釉薬の種類は様々ですが、植物灰を主成分とした灰釉、石灰と長石を主成分にした長石釉を掛けます。
現代ではケイ酸やアルミニウムを主成分とする白色の土を使用しますが、白土が見つからない時代には、やや灰色がかったものや黄色がかったものに白泥を塗り、その上から透明釉で白磁を作ることもございました。
また、透明度の低い乳白色の釉薬で白くしたものも白磁と呼ばれます。
その白い陶磁器は清潔感があり、使いやすく、そして青花や彩色磁器の礎にもなります。
白磁の歴史
白磁は中国で生まれ、起源は6世紀の北斉まで遡るといわれます。
青磁と並んで発展をし、邢州窯や定窯といった窯で名品が数多く残されていきます。
宋時代には青磁が主流となり白磁はやや目立たない存在となりますが、元時代から徐々に需要が高まり、明時代には青磁に変わり陶磁器の種製品となっていきます。
その中国の影響を受け、朝鮮半島や日本でも白磁が作られるようになります。
中国・唐代から宋代の白磁
唐代の中期には邢州窯(けいしゅうよう)や定窯(ていよう)で白磁が作られます。この頃の白磁は土が純白ではなく白い化粧土を上にかけておりました。
その後、晩唐から五代の時代に胎土は白く磁器化し、その上からやや青みがかっている透明釉を掛け光沢のある白磁が焼造されます。
そして北宋になると、定窯では胎土は純白で硬く焼きしまったものとなり、その上にやや黄色みの帯びた釉薬が掛けられ、定窯は完成に至り、宋代五大名窯と称えられるほどになります。
定窯白磁は器面に「刻花(こくか)」や「印花(いんか)」といった模様で蓮華・草花・水鳥・魚・祥雲・龍といった様々な装飾を施し、単調な白磁に優美さを兼ね備えておりました。
中国の景徳鎮白磁
中国の白磁において欠かせないものとして景徳鎮(けいとくちん)の白磁がございます。
景徳鎮が有名となるのは元時代以降ですが、9世紀頃から白磁は作られていました。
北宋には微量に鉄分を含む釉薬を施した、青白磁(せいはくじ)が作られます。
青白磁は白磁の一種とされており、その静謐な佇まいと水色に発色する釉溜りが美しく、宮廷や日本の大名に珍重されました。
元〜明時代になると景徳鎮は大きく発展をし、高嶺山(かおりんさん)から取れる、白色度の高い高嶺土を陶土に加えた純白の素地となり、正真正銘の純白の
白磁が焼かれるようになります。
そしてその純白の白磁を用いた青花(染付)や釉裏紅といった彩色磁器が作られるようになります。
景徳鎮については詳しくはこちらの記事がおすすめです
>>景徳鎮(けいとくちん)とは|中国最高の白磁と青花の特徴と歴史
朝鮮半島の白磁
9〜10世紀ごろから現在の仁川広域市において、陶胎で白みがかった焼き物が作られ、高麗時代の12世紀には全羅北道扶安(ふあん)郡柳川里にてわずかですが作られます。
これらの時代のものは高麗白磁として珍重されました。
朝鮮半島の陶磁器は中国からの影響を強く受けており、李氏朝鮮時代中期に官窯にて白磁が多く作られるようになります。
17世紀には青みがかった釉薬であったが、中期から末期には乳白色の釉薬へと変化をしていきます。
中国の景徳鎮の白磁は均整の取れたものが多いが、朝鮮半島の白磁は土が粗く形もやや歪であったりとどこか温かみを感じ日本人に好まれやすいものでした。
官窯である「分院」などでは、均衡のとれた形の器に純白の釉薬を施した品質の高いものも作られております。
日本の白磁
日本へは16世紀ごろ、特に文禄・慶長の役の際に朝鮮半島から来た陶工によりもたらされたとされています。
1616年ごろに肥前国有田の泉山で白磁に適した土がみつかることで、李参平によって、白磁が製造が定着していきます。
しかし、白磁そのものは日本ではあまり作られることはなく、多くは染付や絵付の素地として利用がされ、大名などへの献上品とされます。
幕末になると白磁は日用品となり一般にも普及するようになります。
白磁の特徴
白磁は元々青磁から派生したもので、青磁の素地と釉薬の中から鉄分を除去して作られたものです。
それが技術が進歩し白色の胎土に透明釉の白磁となっていきます。
カオリナイトと呼ばれるケイ酸とアルミニウムを主成分とする白色の粘土で素地を作り、鉄分を含まない植物灰とカオリナイトを精製してつくる透明釉を掛け高温の還元焼成にて焼き上げます。
時代や窯ごとに近隣で取れる白い土を使うことや、植物灰を用いた透明釉も精製の方法が違うため、その成分により黄みがかったり、青色がかったものがございます。
白磁と白釉の違い
白磁は「白色の胎土に透明釉を掛けたもの」を指しますが、定義は少し曖昧であり白い陶磁器全般を白磁と呼ぶこともございます。
白い陶磁器を作る方法は主に以下のようになります。
美術館などの収蔵品には以下のものを白磁と名付けられているものもございます。
- 白色の胎土+透明釉
- 有色の胎土+白化粧+透明釉
- 有色の胎土+白釉
白磁と白釉の違いは、白色の胎土+透明釉のものが白磁、白い釉薬を掛けたものを白釉陶磁器とお考えください。
青白磁
青白磁も白磁の一種で、宋代の景徳鎮で主に作られ、微量の鉄分が残ることで青みをおびた白磁となります。
溝に溜まった釉薬が特に美しく、梅瓶や香炉、鉢、水差の優品は宮廷で珍重されました。
純白の白磁になる過程で生まれたものという考え方もできます。
当美術館掲載のおすすめの白磁
邢州窯 白磁獅子手水注
中国・唐代に邢州窯で焼かれた初期の白磁でやや茶色がかった胎土に白化粧をし、透明釉を施しております。
無釉である内側や底は触るとざらざらしており胎土の質感を感じます。
肩が膨らんだ器胎には獅子を模した持ち手がつき、手と足を伸ばししがみついている様子が愛らしいです。
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定窯 白磁印花草花文盤
中国・北宋時代の定窯の品で、胎土は固く焼き締まり磁器質で、やや黄色みを帯びた釉薬が特徴です。
器面には道具を使って模様を彫る「刻花」と型を使って模様を押す「印花」という2種類の技法により模様が刻まれます。
北宋定窯では器面を裏返して焼く覆焼きをしており、釉薬が削がれた口縁部には金属の覆輪がつけられます。
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李朝分院手染付角徳利
李氏朝鮮時代に官窯である分院にて焼かれた白磁染付による徳利です。
分院は均整のとれた器形に美しい白色の釉薬で作られ品質は非常に高く、その染付の図柄は都から派遣された画院の絵師によるものであったとも言われております。
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古九谷様式 色絵五三桐文方形小皿
有田焼の一つである古九谷様式による方形小皿で白磁の上に色絵により模様が描かれます。
裏面の「角福」銘は1630年ごろから吉祥を意味する銘款の一つとして伊万里や九谷で使用がされたものです。
大量に焼かれていた10〜20客揃いの数物ですが、小さくても手を抜かずにクオリティーを保つというこだわりが感じ取れます。
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白磁は陶磁器の歴史としてとても長く、現代においても人気の高い種類の一つで、日用品として愛されています。
特に中国・朝鮮ではその純白の姿にとても価値を見出し、珍重されました。
染付や色絵に移行し、白磁そのものの数は少なくなりましたが、彩色磁器もそれぞれ元となる白磁には違いがございます。
当美術館では厳選した白磁の美術品を掲載しておりますので是非色々とご覧いただき、色味の違いを楽しんでいただければと思います。
白磁の購入方法
白磁は中国、朝鮮製ともに数が多いようですが、染付や色絵に移行したことから実は優品は市場に少ない陶磁器です。
また、気に入ったものを見つけることはなかなか難しい陶磁器でもあります。
というのも透明釉のため、使用している土の色により白と言ってもそれぞれまったく違う表情だからです。
白という色は無限である言葉は過言ではありません。
そのため、骨董市や骨董屋、またインターネットなどでとにかく多くの白磁を見てみる他ありません。
中国の唐代から明代の民窯で焼かれたものは優品で10万円前後くらいからが相場です。
また、中国の定窯などの白磁は明時代以降に模倣もされており真贋の鑑定も必要となります。
ちなみに宋時代の本物の定窯であれば民窯で最低でも100万円、官窯なら数千万円は下らないでしょう。
朝鮮物の場合は少し安く、李氏朝鮮時代のものであれば5万円前後から市場で見ることができます。
しかし、李朝の官窯である分院手は値段も10万円から20万円代まで跳ね上がります。
また、白磁は真っ白で綺麗なものをお探しであれば、不純物を取り除くことのできる現代物でもとても良いものがございます。
当美術館でも公式ストアで厳選した白磁を販売しておりますので、よろしければご覧くださいませ。
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