古美術の陶磁器の瓶は様々な目的で作られ、多種多様な形状がございます。
陶磁器の中でも特に瓶が一番様々な形状が作られており、その瓶の名称も様々です。
陶磁器の瓶を探しているけど何と検索していいかわからないという話も多く聞きます。
瓶にはその形状や目的に基づいてそれぞれ名称が付けられておりますので、解説をしたいと思います。
元の生産国と日本で呼び方が違うものにつきましては両方解説をさせていただきます。
美術館めぐりや骨董品の購入の参考にしていただければと思います。
目次
瓶の名前の付け方は大きく3種類
まず、瓶の名前の付け方は大きく3種類ございますのでそちらを解説いたします。
1.由来があり特定の名前が付けられているもの
梅瓶、尊形瓶、玉壺春瓶など、形状そのものとはあまり関係のない別の由来から付けられています。
2.形状の特徴からつけられた名称
口、頸、肩、胴、耳、装飾などの形状から名称が付けられています。
頸(首)が長いから長頸瓶、胴が六角形だから六方瓶など、形に沿った名称です。
3.上記の形状の特徴を2つ以上組み合わせたもの
1や2の由来や特徴が2つ以上組み合わさって付けられる名前もございます。
おおよそ上記の3つのルールに基づいて瓶の名前がつけられます。
まずは1.由来がある名称と2.形状の特徴による名称の代表的な瓶をご紹介いたします。
梅瓶(めいぴん)
丈が長く腰が細く絞られ、胴から肩にかけて丸く張り、口が窄まった形状です。
中国北宋時代の初期より作り始められたとされ、清代頃より梅瓶という呼ばれ方をされるようになりました。
清代の口径の小さい器を「梅の痩骨」と称されたことが由来とされます。
口が細く、水やお酒など入れ注ぐことに適した形状です。
中国・朝鮮・日本どこでも同じ呼び方をします。
玉壺春瓶(ぎょっこしゅんへい)
下膨れの腹にそこから繋がるように頸が細く絞られ、口は自然と緩やかにラッパ型に広がります。
この形状は中国宋代より作られ始め、多少の形を変えながら元代・明代と作られます。
「春」という漢字は酒の種類や銘柄に使われ、玉壺春という名称から酒器に使われいたと考えられています。
中国・朝鮮・日本どこでも同じ呼び方をします。
尊形瓶(そんがたへい)
底が小さく腰にかけてやや内側に入り、胴から口にかけて大きく反り広がるラッパのような形状をしています。
胴で一度膨らむものもございます。
この形は古代中国の青銅器として作られていた「尊」というもの一つを形を参考にして作られたものです。
尊のなかでも觚式(こしき)というお酒を飲むために用いられていた器を参考にしており、「觚式瓶(こしきへい)」とも呼ばれます。
琮式瓶(そうしきへい)
外形は方柱状(四角柱)で四隅には浮き彫りで模様が彫刻され、中心には長軸方向に円形の口が開いています。
この形は琮と言われる形状で古代中国より玉器として供犠や葬儀などの祭祀や儀礼に使用されておりました。
円筒形の穴は天を、方形の外形は大地の象徴であり、天地の結合をシンボルとしていると言われています。
琮形瓶(そうがたへい)とも呼ばれます。
様々な高さや大きさがあり、水瓶や花器として使用されました。
長頸瓶(ちょうけいへい)
その名の通り、頸(首)が長い形の瓶です。
長い首はまっすぐ伸びるものや、なだらかに反るものがございます。胴は丸いものが一般的です。
写真のように首がまっすぐで胴が丸く膨らんでいるものは日本では「下蕪(しもかぶら)」とも呼ばれます。
主に花器として使用がされました。
鶴首瓶(かくしゅへい)
鶴の首のように頸が長い形状が特徴です。
首は反り返ることなくまっすぐ伸びます。
上記の長頸瓶よりさらに長く胴の1.5倍くらいの長さを持ちます。
中国唐のころに作られており、異例としては高麗青磁に多くございます。
鶴首瓶の呼び方は主に日本で使われます。
紙搥瓶(しついへい)
胴が太く肩で折り曲がり、頸(首)が真っ直ぐ伸びます。
口はまっすぐのものもあれば、やや広がったものがございます。
紙などを叩いて伸ばす紙搥(しつい)を元とした形状です。
日本では砧形瓶(きぬたがたへい)と呼ばれます。
布などを叩いて柔らかくする道具である「砧(きぬた)」を由来します。
※砧青磁という言葉がありますが関係はありません。
弦紋瓶(げんもんへい)
胴がそろばん状に膨らみ、太めの首に横方向に丸く広がった口を持ちます。
一周する弦のような突起が頸から胴にかけてがあることから、弦紋瓶と呼ばれています。
弦紋瓶の形は写真のように首に2本、胴に1本入るものが南宋の官窯や龍泉窯製で良く見られる形状です。
日本では形が筍に見えることから筍形瓶と呼ばれます。
主に花器として使用されました。
葫芦瓶(もっこへい)
ひょうたんの形を模した瓶で、中国では葫芦(もっこ)と呼ばれます。
元々、植物のひょうたんも中身をくり抜き乾燥させ水筒として使われており、中国南宋時代に陶磁器として作られ始め、同様に水やお酒を入れるために使用されました。
日本では瓢箪形瓶(ひょうたんがたへい)と呼ばれます。
瓜形瓶(うりがたへい)
胴は瓜のような形で垂直方向に凹凸を持ちます。
宋代によく見られる器形で、主に花瓶として使われておりました。
日本では瓜型瓶、中国では瓜棱瓶(かりょうへい)と言います。
蒜頭瓶(さんとうへい)
蒜とはにんにくのことであり、瓶の頭がにんにくのように横に膨らんだ形の瓶です。
胴から下部は長頸瓶のような形が一般的です。
小型のものは酒器として、大型のものは花器として使用されました。
鳳凰耳瓶(ほうおうじへい)
首に鳳凰の意匠の耳(取手)が付いている形状です。
広く広がった口い細い首、太い胴に角ばった肩を持った瓶に備えられるのが代表的です。
鳳凰の意匠は中国では縁起の良いものとされ、主に宮廷や貴族の間で使われていた陶磁器にのみ使われます。
中国南宋青磁の名品に多く、主に花生として使われ、日本にも青磁鳳凰耳花生などが美術館に収蔵されます。
魚耳瓶(ぎょじへい)
首に魚の意匠の耳(取手)が付いている形状です。
上記鳳凰耳瓶とほぼ同様の形状ですが、魚耳は香炉に主につけられ、瓶につけられることは少なく遺例はあまりありません。
龍耳瓶(りゅうじへい)
龍の意匠の耳(取手)が付いている形状です。
丈が長く腰が細く絞られ、胴から肩にかけて丸く張り、首は長めです。
龍耳は長く肩から口にかけて備えられ、龍の口が瓶の口を咥えるように配置されます。
中国の唐時代の越州窯青磁や唐三彩で主に使われ、大きめの瓶が多く主に花器として使用されます。
龍の意匠は権力者として皇帝の象徴であり、皇帝の他、皇帝から授けられた官人の陶磁器のみのものでした。
上記以外にも鳳凰耳瓶のような形で龍耳が備わったものもございます。
面取瓶(めんとりびん)
厚く形成した瓶にヘラを入れて多面に面取をした形状です。
李氏朝鮮時代の白磁で主に作られ、陰影が美しく見えます。
祭器として花器や酒器として使用されました。
特徴を2つ以上組み合わせて付けられた名前
上記に挙げたものは中国・朝鮮半島・日本でも多く作られた代表的な形です。
それ以外にも口、頸、肩、胴、耳、装飾などの組み合わせにより、瓶の形はもっと多様に作られております。
そのような枠に収まらない形状のものは特徴を組み合わせて名称が付けられます。
例えば
「口の形状は花形」で「胴の形状は八角形」の瓶の場合は「花口八角瓶」となります。
まずはそれぞれの部位にどのような形があるか説明いたします。
口縁部の形の種類
瓶の上部である口縁部や頭部の形です。
花口(かこう)
口縁部が花びらのように波打った形。様々な形状があります。
盤口(ばんこう)
口縁部が円形の板状に横に広がった形です。平で薄いほど技術が必要です。2段、3段となっているものもございます。
蒜頭(さんとう)
頭が蒜(にんにく)のように膨らんだ形です。種類形状は様々です。日本では柑子口(こうじぐち)とも呼ばれます。
全体(胴や肩、頸など)の形の種類
瓶の大まかな形を決める頸、肩、胴、腰の形です。
長頸(ちょうけい)
長い頸(首)の形。まっすぐ伸びたもの、少し反ったものがございます。
瓜形(うりがた)
胴が瓜の形。中国では瓜棱とも言います。
方形(ほうがた)
上から見たときに四角形の形です。全体だけでなく胴のみの場合もあります。
六角(ろっかく)
上から見たときに六角形。中国では六方(ろっぽう)とも言います。
八角(はっかく)
上から見たときに八角形。中国では八方(はっぽう)とも言います。八角形は中国では八卦などとよばれ易などで使われていた形です。
折肩(せっけん)
肩が折れ曲がって角のある形。折れ曲がり具合は様々ですが、左のように釉薬が溜まらないほど尖っている物の方が美しいです。
梅瓶(めいぴん)
全体が梅瓶の形。
玉壺春(ぎょっこしゅん)
全体が玉壺春の形。
耳の形
頸についた小さな持ち手のような意匠を耳と言います。基本的には対象に2つもしくは4つ備えられます。
龍耳(りゅうじ)
龍の形をした耳。
鳳凰耳(ほうおうじ)
鳳凰の形をした耳。
魚耳(ぎょじ)
魚の形をした耳。
獣耳(じゅうじ)
獣形の耳。
貫耳(かんじ)
筒状に縦に伸びた形の耳。大小様々であり、まっすぐな物もあれば首の形に沿って曲線のものもあります。
双耳(そうじ)
特別な形をしていない耳が二つ付いているもの。
四耳(しじ)
耳が四つ付いているもの。形は画像のように筒のものやただの半球体など様々。
装飾
全体、もしくは一部につけられる彫り模様などです
弦紋(げんもん)
瓶の横方向にぐるりと一周付けられた弦のように浮き出た装飾です。
貼花(ちょうか)
亀や花などの意匠を貼り付けたものです。瓶ではあまり見られません。
組み合わせた名称の一例
上記のように瓶の各箇所の特徴には名称が付けられており、それを組み合わせることで瓶の名称は付けらます。
名称の順番に必ずしもルールがあるわけではありませんが、概ね(口)+(耳もしくは装飾)+(全体の形)+瓶という順番でつけられます。
例えば以下のような代表的な瓶がございます。
盤口折肩瓶(ばんこうせっけんへい)
盤状の口(盤口)+肩が折れ曲がった肩(折肩)+瓶から名付けられます。
特別な名称がないものですが中国汝窯などで名品が多い形状です。
花口瓜棱瓶(かこうかりょうへい)
花形の口(花口)+瓜形の胴(瓜棱)+瓶から名付けられます。
南宋龍泉窯で多く作られた形で人気の高い形状です。日本名では花口瓜形瓶とも言います。
貫耳長頸瓶(かんじちょうけいへい)
筒状の耳(貫耳)+長い頸(長頸)+瓶から名付けられます。
貫耳は装飾としては様々な瓶に備えられますが、長頸瓶と組み合わせられています。
貫耳八方瓶(かんじはっぽうへい)
筒状の耳(貫耳)+八角形の胴(八方)+瓶から名付けられます。日本名なら貫耳八角瓶でも構いません。
写真のように頸が長い(長頸瓶)特徴もございますが、このように他に目立つ特徴がある場合、名前に入れないこともございます。
貫耳八方長頸瓶でももちろん構いませんが、くどくどしい場合には省略をすることは珍しくありません。
瓶の名前は明らかに間違っていない限り、所有者が自由につけることが可能です。
※窯、釉薬などを名称に含む場合は(窯)+(釉薬)という順番で各名称の前に付けます。
例えば上記の盤口折肩瓶で龍泉窯の青磁のものであれば、「龍泉窯 青磁盤口折肩瓶」という感じになります。
また、青花(染付)の場合は 青花+(青花の模様の名称)を瓶の頭につけることになり、例えば「景徳鎮窯 青花菊花文梅瓶」のような名称となります。
美術品の鑑賞や骨董品探しにお役立てください
このように当時の名称の付けられ方を知っているだけで、陶磁器の鑑賞が何倍も楽しくなります。
名称に付けられている部分というのは瓶の中でも特徴的な部分であり、所有者が見てほしい部分でもあるためです。
そのような所有者の思いにふけながら、それぞれの美術館で鑑賞をお楽しみください。
当オンライン美術館でも多くの瓶を掲載しており、それぞれ特徴を捉えた名称が付けられておりますので、美術館にお出かけの前にご覧いただき予習してみてください。
また、骨董品の瓶をお探しの方で、見つけるのが苦労されていた方はこのページでご説明した特徴を入れて検索をされると良いものが見つかると思います。
例えば鳳凰耳の瓶が欲しいと思われたのなら「鳳凰耳 瓶」などを検索キーワードに入れるとかなり絞り込めると思います。
当オンライン美術館でも公式の骨董店がございますので、瓶の中から好みの形状・特徴の瓶を是非お探しください。
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