高麗青磁の技法の中でも特に人気の高いのが「象嵌(ぞうがん)」。
象嵌は高麗で独自に発展した装飾技法で、高麗が参考とした青磁である中国からも高く評価されました。
朝鮮陶磁を収集、鑑賞する上で欠かせない象嵌について詳しく解説いたします。
また、代表的な象嵌の模様についてもご紹介いたしますので、模様の名前が知りたいという方にもおすすめの記事です。
ご自身のコレクションと照らし合わせて見てください。
高麗青磁象嵌(そうがん)とは
象嵌は高麗青磁が最盛期を迎える12世紀前半ころに高麗独自の装飾技法として「象嵌青磁」があみ出されました。
この象嵌は元々は金工・漆工などで行われた技法を陶磁器に応用いたものになります。
実は陶磁器の象嵌は中国の唐時代に見られたとされますが、いわゆる陶磁器の象嵌を指すのはこの12世紀中頃から14世紀末までの高麗青磁の象嵌です。
この高麗独自の技法は高度で繊細な美しい陶磁器を生み出しました。
象嵌の作り方
象嵌は乾かした胎土をヘラにて溝を掘り、その溝に白や黒の土を擦り込み模様を描きます。
白黒の土を埋めたのちに上から青磁釉をかけて焼成をいたします。
他にも印花(いんか)とよばれるスタンプで連続模様を押してその溝に土を擦り込む技法もございます。
象嵌の色の違い
象嵌の土は白の方が器面に映えるため多く、黒象嵌は動物の目や花の蔦などアクセントとされることが多いです。
白象嵌(しろぞうがん)
白土を埋めたものを白象嵌と言います。青磁の色に映えるため白象嵌が最も使われます。
黒象嵌(くろぞうがん)
黒土を埋めたものを黒象嵌と言います。黒象嵌は動物の目や尾、植物の蔓などを色によって描き分けるのに主に使われます。
黒象嵌のみで作られることはほぼございません。
逆象嵌(ぎゃくぞうがん)
模様の背景を削り白・黒象嵌を埋めることで胎土によって模様を浮かび上がらせる技法を逆象嵌といいます。
象嵌模様の種類と名前
象嵌模様にはある程度決まった題材があり、その組み合わせによって構成されます。
また、器面の中央など目立つところに置かれる主題として扱われる
主となる文様
主となる模様は動物が多く、他には大きく描かれた草花がございます。
模様には意味があり、それにより誰が使っていたのか、どういった目的で使われていたのかがおおよそわかります。
主となる模様が陶磁器の名称に使われることが多いです。
龍文(りゅうもん)
龍は王朝の象徴であり、龍が描かれるものは王朝で使われた可能性が高い品になります。
また、中国への献上品などでも使われたようでございます。
龍と雲を組み合わせた「雲龍文(うんりゅうもん)」もございます。
鶴文(つるもん・かくもん)
鶴は長寿を意味する吉祥文として主に位の高い方に使用されました。
雲と組み合わせられる「雲鶴文(うんかくもん)」が多く、他に地面に立った「立鶴」などがございます。
鳳凰文(ほうおうもん)
鳳凰は他の鳥文と似ていますが、頭の鶏冠と広がった尾で見分けることができます。
鳳凰は平和と幸福を象徴し、また不老長寿などを意味します。
雲と組み合わせられる「雲鳳文(うんほうもん)」がございます。
魚文(ぎょもん)
魚文もほとんど高麗でしか使われない模様です。
魚は多産を意味します。
他に、険しい表情である鱖魚(けつぎょ)は、鱖は宮闕に入って出世する意味を成します。
人物図
子供である「唐子(からこ)」や朝鮮の官人である「両班(ヤンバン・リャンバン)」などの人物が描かれます。
人物図が描かれる品は大変少なく希少です。
菊花文(きっかもん)
菊は薬などとして使用され「延命長寿」の意味を持つとされます。
香合や小さな器の場合は主題にすることも多く、中央に一輪添えることや、輪状に何輪か並べます。
菊花文はしべと花びらのみの図と、黒象嵌で蔓を描いたものがあり、蔓の本数で価値が変わります。
この模様は副題としても使われ、主題の周りを彩ります。
牡丹文(ぼたんもん)
花弁の先が細く中央から広がるような花です。牡丹は富貴の象徴と言われます。
牡丹に葉が組み合わされた牡丹葉文もございます。
蓮花文(れんかもん)
蓮は恋愛や子孫繁栄の願いが込められます。
大きな蓮の花は主題にも使われます。
縁などの装飾に使われる後述の蓮弁文もございます。
柳文(やなぎもん)
垂れ下がる木である柳は生命力の強さから災害や病気を守る意味と考えられます。
柳文は鳥などの模様と組み合わせて使われることもございます。
副題となる文様(地文など)
主となる模様の周りを飾るように模様が描かれます。
小さい模様や繰り返し模様が多いです。
蓮弁文(れんべんもん)
蓮の花びらだけを連ねた模様です。蓮花文と同じく恋愛や子孫繁栄の意味を持ちます。
蓮弁文はデザインの種類が多数あり、写真以外にもございます。
草花文(そうかもん)
様々な草花をモチーフとした模様です。他のモチーフを華やかに装飾するために使われます。
雷文(かみなりもん・らいもん)
雷をモチーフとした幾何学模様で不断長久(絶えず長く続く)や豊作を意味する吉祥文と考えられています。
器の縁や高台脇などに施されます。
連珠文(れんじゅもん)
珠を連ねたような文様です。
器の縁や高台脇の他、地文として埋め尽くす場合がございます。
唐草文(からくさもん)
葡萄やナツメヤシなどの植物の蔓を図案化したものでエジプトから中国を経て伝わりました。
生命力を象徴し、子孫繁栄や長寿を意味します。
主題の周りにつけられる他、唐草自体が主題となることもございます。
如意頭文(にょいとうもん)
如意とは仏教道具の一つです。スペードに似た雲形の頭に柄をつけた鍬形状をしています。
その如意の頭を並べて繋げた形状です。こちらもデザインがいくつかございます。
雲文(うんもん・くももん)
上記の鶴や龍と組み合わさることの多い模様で、吉祥文として使われます。
霊芝と呼ばれる万年茸に似ていることから霊芝雲文(れいしぐももん)とも呼ばれます。
特殊な模様
景色を器面に描いた図や、生産された地の漢字文などがございます。
景色の図はこちらで紹介する以外にも名称が付けられているものがございます。
葦鳥文(あしとりもん)
自然の景色をモチーフとしたもので植物の葦にとまる小鳥の景色を葦鳥文といいます。
蓮池水禽文(はすちすいきんもん)
池に浮かぶ水鳥と草花による模様を蓮池水禽文といいます。
楼閣山水文(ろくかくさんすいもん)
建物の楼閣と山川などの自然を組み合わせた図柄を楼閣山水文といいます。
字文
主に漢字が使用され、十干十二支を表す文字。
納めた場所である「長興庫」、焼造地域である「金海」などがございます。
他にも梵字などもございます。
器形に対する装飾
水滴などの器形そのものが特徴的なものであった場合に、その特徴を生かすために象嵌がされることがございます。
例えば写真のように亀の甲羅を象嵌で描くことや、動物の目を黒象嵌されることがございます。
当美術館に掲載の高麗青磁象嵌
高麗青磁象嵌 三島魚文高足皿
足が高く、緩やかにアーチを描いた皿が乗ります。
器面に象嵌による模様が描かれ、皿の上面には中央に菊花文、その周りに3匹の鱖魚(けつぎょ)が泳ぎます。
その周りには印花による菊花、、枠には蝶、さらにその周りには草花文、足には屈折した線が象嵌されます。
この器は下面の見えないところまで象嵌がされ、更には足の内側にも蓮花文が並べられる贅沢な品です。
↓この陶磁器の詳細はこちら↓
高麗青磁 象嵌蓮花文扁壺
丸い瓶の2辺を平らにした扁壺で器面いっぱいに象嵌が施されます。
胴の平面には地から伸びる生命的な二輪の蓮花文が描かれ、その周りに連珠文、菊花文が印花により枠のように敷き詰めら引き立てます。
上下に2種のデザインの蓮弁文と連珠文を一周描き華やかに彩ります。
かけられた青磁釉は灰色がかっており、高麗末から始まる粉青沙器に繋がる釉調です。
↓この陶磁器の詳細はこちら↓
高麗青磁象嵌を見るなら陶磁オンライン美術館
高麗青磁象嵌は日本へも多く渡っており、骨董屋などでもよく見ることができます。
しかし、販売されているものは小物が多く、大型のものや珍しい模様、形の品はあまりございません。
当オンライン美術館では青磁象嵌の中でも珍しいものを選び掲載しております。
また、模様の拡大をじっくり見ることもできますので、骨董屋や美術館とは違った青磁象嵌の世界をお楽しみください。
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