美濃焼(みのやき)とは|日本最大の陶磁器生産地の種類や特徴

岐阜県で現在も続く美濃焼(美濃窯)は平安時代から安土桃山時代には大名の窯として多くの名品が残されました。
志野焼や織部焼など歴史に名を刻んでいる陶磁器も多くは美濃窯の生まれです。
そんな数々の名品を生み出した美濃焼の特徴や歴史を当館収蔵陶磁器の写真と共に解説させていただきます。

美濃焼(美濃窯)とは

美濃焼(みのやき)とは岐阜県の東濃地方(土岐市、多治見市、瑞浪市、可児市)を中心とした日本最大規模の陶磁器の産地です。
須恵器などの平安時代の焼き物から発展し、この地域で制作される陶磁器のを指して「美濃焼」と呼ばれます。
美濃焼は歴史に残る様々な種類の陶磁器を生産し、志野(しの)、織部(おりべ)、黄瀬戸(きぜと)、瀬戸黒(せとぐろ)、天目茶碗(てんもくちゃわん)などがございます。
美濃焼は現在でも生産がされておりますが、このページでは主に古陶磁や古美術についての美濃焼について解説をいたします。

美濃焼の歴史

美濃ではは古墳時代や縄文時代にも陶器生産がされておりました。
縄文時代から平安時代には陶質土器の須恵器が焼かれるようになります。
鎌倉時代以降、斜面を利用した登り窯による陶器生産がされ、15世紀から16世紀に織田信長の経済政策により瀬戸の陶工達が集められ、単室窯の大窯による陶器生産がされるようになります。
安土桃山時代には茶の湯の完成によって「美濃桃山陶」が焼かれるようになり、美濃焼の基礎が築かれ陶磁器の一大産地となります。
そのころに志野、織部、黄瀬戸、瀬戸黒といった優れた茶陶が生まれます。
特に織部焼きは江戸時代の連房式登り窯になると優品が生み出されるようになります。
江戸時代中期には御深井焼(おふけやき)が焼かれはじめ、末期には磁器の生産が始まり、そして現在まで続く大窯業地となります。

美濃焼と瀬戸焼の関係

美濃焼の代表的なものには黄瀬戸、瀬戸黒といった瀬戸の名前を冠するものがあり、美濃焼なのか瀬戸焼なのか困惑をするものもございます。
これは桃山時代の畿内では「美濃焼」と「瀬戸焼」を区別せず両者を合わせて「瀬戸」と理解していたことによります。
美濃窯と瀬戸窯は隣接しており、また瀬戸の陶工が美濃に集められた経緯や、瀬戸系の美濃窯などがあったことから、このような認識を産んだものと考えられます。

美濃焼の特徴

美濃焼が隆盛した安土桃山時代は茶の湯などに使われる陶磁器の「美濃桃山陶」、これまでになかった自由な発想で形状や釉薬の陶磁器が生まれるようになります。
美濃桃山陶は日本陶磁史において画期的で最も斬新な焼き物とも言われております。
その中で生まれたそれぞれの陶磁器について解説いたします。

志野焼

Shino Ware Tea Bowl with Plane Design "Muji Shino"

無地志野茶碗

室町時代の茶人・志野宗信が美濃の陶工に命じて作らせたのが始まりとされます。焼き締まりの少ないもぐさ土などをを用い、素地は鉄分が少なくややピンク色がかった白土です。
砕いて精製した長石を主原料にした白釉を厚めにかけ、卵色をした釉調となります。
釉肌には細かな貫入や柚肌、小さな孔が多くあり、釉薬の薄い箇所には「緋色の火色」と呼ばれる赤みを帯びた景色が出ます。
志野焼は掻き落としを用いた鼠志野、赤く焼き上がった赤志野、絵付をした紅志野、絵志野などがございますが、釉薬をかけただけの「無地志野」は数が少なく希少なものとされています。

織部焼

織部黒

織部黒茶碗

千利休の弟子であった茶人の古田織部の指導のもと作られました。茶人たちに珍重された中国南方の交趾焼(こうちやき)を参考にしたと言われております。
古田織部といえば漫画の「へうげもの」でも有名ですね。
「織部好み」とも言われていた織部焼は左右非対称であることに美しさを見出し、沓(くつかけ)などの奇抜な形を意図して作られています。
織部焼は銅緑釉を用いた「青織部」が有名であり、これが「織部釉」とも呼ばれます。
鉄分の多い赤土を素地としたものは「赤織部」、鉄釉で全体を覆った模様のないのを「織部黒」、同じく鉄釉だが窓絵と言われる模様がついたもので「黒織部」などがあります。
絵付をされることが多く「絵織部」とも呼ばれ、縞模様や四角などの幾何学模様や京風の図柄が描かれました。
織部焼は古田織部の没と同時に古典的な青磁の復興もあり、わずか9年ほどしか製作されませんでした。

↓織部焼について詳しくはこちら↓

黄瀬戸

黄瀬戸は古瀬戸の流れを汲む淡黄色に発色をした灰釉の陶器です。瀬戸と名を冠していますが、瀬戸系の美濃窯で焼かれたものと考えるのが一般的です。
あえて歪みをつけた形が多い美濃焼の中、黄瀬戸は歪みのない端正の器形のものがほとんどであり、瀬戸と同じく中国陶磁を母型にしておりました。
黄瀬戸の釉色は光沢の強い灰釉である古瀬戸系黄瀬戸と、しっとりとした油揚げのような発色をする黄瀬戸に大別されます。
古瀬戸系は中国の陶磁器の器形を参考に写しとして量産されていました。
後者の黄瀬戸はろくろによって端正に形成され鉢や向付、香炉、花生けなど高級品を作られています。
ヘラや印花(押し型)にて草花模様をあしらい、銅や鉄で緑彩を打ち味わい深く雅な意匠も特徴です。

瀬戸黒

Seto black Tea bowl

瀬戸黒茶碗

瀬戸系の美濃窯で焼かれた陶磁器であり、その名の通り全体が黒い色を呈します。
瀬戸黒は大窯と呼ばれる単室の窯で焼かれ、鉄釉をかけた茶碗を焼成中に窯から取り出し急速冷却することにより独特の艶のある黒い茶碗に仕上げます。
この技法は「引き出し黒」と呼ばれます。
釉薬は全体にかけ底部は高台がわずかに露胎するのみで、漆黒の釉薬の存在感は圧巻です。

美濃窯と天目茶碗

天目茶碗といえば中国のものですが、16世紀の室町時代に需要が高まり、それに倣って主に美濃窯や瀬戸窯で製作がされるようになります。

段つき白天目

段付き白天目

美濃の天目は建窯のものだけでなく、磁州窯や茶洋窯もモデルにし、中国のものとは異なる形状です。
その中でも日本独自のものとして名品も生まれ、重要文化財となっている「菊花天目」や「白天目」などがあり、美濃の和物天目は人気の高い茶碗の一つです。

当館の美濃焼(美濃窯)の陶磁器

様々な種類のある美濃焼、その美しい作品を当美術館の所蔵のものから紹介いたします。

無地志野茶碗

無地志野茶碗

鉄絵のない釉薬が掛けられただけの志野焼を「無地志野(むじしの)」と呼びます。
絵志野や鼠志野に比べて遺品が少なく、特に茶碗は数点しかありません。
卵色の白釉に細かい貫入が入り、ゆず肌となるところには小さな孔があります。
口縁や胴の釉薬のかかりが薄い箇所は、赤く発色をし、緋色の火色と呼ばれる景色が美しい逸品です。

↓この陶磁器の詳細はこちら↓

織部黒茶碗

織部黒

大ぶりで力強い沓形とをした特徴的な形で、ろくろで成形したのちにあえて楕円形に歪めております。
口縁部は波うつように高低がついており、左右非対称の美を感じます。
高台周辺を掛け残し、器胎が見えるように鉄釉を施し、独特の艶をもつ黒色を呈します。
漆黒のように黒いのは、「引き出し黒(ひきだしくろ)」という技法で焼成中に窯外に引き出し、急冷することによります。

↓この陶磁器の詳細はこちら↓

菊花天目茶碗

菊花天目茶碗

中国の日本では16世紀の室町時代に需要が高まり、美濃窯で倣って製作がされます。
基本的な形は建窯の天目、建盞の束口碗と歛口碗の中間の形状です。
菊花天目は黄色い釉薬の上から茶褐色の釉薬を塗りつけることで、美しい菊の花びらのような模様を描きます。

↓この陶磁器の詳細はこちら↓

美濃焼の陶磁器を見るなら陶磁オンライン美術館で

美濃焼の一覧当オンライン美術館ではこのほかにも美濃焼(美濃窯)の陶磁器を多数掲載しております。
志野、瀬戸黒、織部黒といった有名なものから、白天目、菊花天目などの美濃天目まで多数展示しております。
美しい写真と共に掲載しておりますので、ぜひお楽しみいただければと存じます。

伊山大策

伊山大策

名古屋ビジュアルアーツ写真学科在学中より瀬戸焼の陶芸作品撮影を続ける。11年前に愛知の古美術研究にて陶磁器の知識を学ぶ。写真スタジオに3年勤務したのち、広告やWEBサイトの制作を手掛けその経験を活かし、古陶磁美術品の良さを広めるために当サイトを開設いたしました。

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